「広報津」平成23年10月16日/第140号(音声読み上げ) シリーズ 津のひと・もの(12)

登録日:2016年2月25日

裏表紙

シリーズ 津のひと・もの(13)

手描きのぬくもりと迫力を伝えたい

 中河原の静かな住宅街で看板制作の会社を経営する紀平昌伸さん。今では日本に数少なくなった映画看板職人の一人である。
 子どものころから絵を描くのが大好きだった紀平さんは、15歳の時に映画看板職人の見習になった。23歳で独立し、現在の会社を設立。当時は、津地域に10もの映画館があった。映画の看板作りは12平方メートルの大きなものを1日で描き上げるスピードが要求される作業だった。上映期間の終わった看板を外し、その上からまた紙を貼り、次の上映映画の看板を描く。その看板でどれだけ多くの客を呼べるかが職人の腕の見せどころで、ポスターや写真を見ながら、いかに迫力のある看板を描けるかの競争だったと紀平さんは笑う。
 しかし、その後映画館の減少とともに映画看板の仕事は減り、百貨店や店舗の広告看板制作が主な仕事となる。そして、百貨店などの広告用の大きな懸垂幕に筆を使わずにエアブラシだけで絵を仕上げる独自の技法が認められ、平成16年に「現代の名工」に選ばれた。その翌年に「第1回全国1級技能士優秀作品展」に映画看板を出展したことで、再び映画看板への熱い思いが湧いてきた。手描きには、印刷されたポスターとは違う、写真にはないぬくもりと迫力がある。今ではほとんど見られなくなったこの手描きの文化を残そうと、休日に映画看板を書き始めた。
 一昨年、初めて開催した個展の作品の一枚に、奥さんの絵がある。他人ばかり描いていないでたまには自分も描いてほしいと言われて描いたんだと照れ笑いする。奥さんへの愛情が感じられる、優しい表情の絵だ。
 大きなポスターもコンピューターですぐに作れる時代。映画看板を手描きする職人は県内では紀平さんただ1人となった。それでも、紀平さんは、これからも映画看板を描き続けていきたいという。作品を見てもらい、昔、映画看板職人という仕事があったということを、いろいろな場面で、少しでも多くの人たちに伝えていきたいと思っている。職人気質が生き続ける瞳が印象的だった。


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