「広報津」平成23年12月16日/第144号(音声読み上げ) シリーズ 津のひと・もの(15)

登録日:2016年2月25日

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裏表紙

シリーズ 津のひと・もの(15)

100分の1ミリメートルに挑む

 「100分の1ミリメートル」
 全長300メートルもある船を製造する中で、要求される精度である。
 これに挑み続けるのは中井和利さん。雲ず鋼管町にある造船所の1期生で、以来40年余り、船の機関部の工事一筋でやってきた。機関部とは船のエンジンや発電機、プロペラなど船の心臓で、中井さんはその据え付けから調整、試験運転、そしてオーナーに受け渡すところまでを担う、いわば仕上げ職だ。
 「船は生き物ですから」という中井さん。びくともしないように見える鉄の船体も、海に浮かべて浮力が加わると、たわんだり変形したりするという。だから、エンジンなどの機関部は、必ず海水に進水させてから固定させなくてはいけない。
 浮力だけではない。温度もまた重要なポイントとなる。船体が大きいため、日が当たる部分と当たらない部分で温度差が生じる。温度が上がると伸びてひずみの原因となってしまうのだ。そのため、船体の周囲の温度差が2度以内に落ち着く日没後に作業を始め、夜を徹して作業を行う。刻々と変化する船体は、まさに大きな生き物なのである。
 そうした自然の変化に対応しながら、いくつもの機器と船体をつないでいくとき、100分の1ミリメートルを超えるズレは許されない。「1回1回が勝負」なのだ。
 そうした工程を全てクリアして完成する船。オーナーに引き渡す時、引き継ぎを終えた中井さんたちが、船内で乗組員たちと握手を交わす。迎えのタグボートで出発の汽笛を耳にする時、手塩にかけて育てた子どもが巣立っていく、寂しいようなうれしいような感動を味わうという。また次も頑張ろうと思う瞬間だ。
 来年定年を迎える中井さんは、今、次の世代の技術者を育てることに力を注いでいる。一人一人に合わせた細やかな指導を行う中で、職人としての厳しい面も見せる、みんなの良き父親役でもある。
 今日も中井さんたちの技の結晶が七つの海を行き交っているという気概こそが、中井さんの誇りである。


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