ページ番号1014024 更新日 2026年10月30日

地籍調査はインフラ整備の基盤~今後の地籍調査の展開~
国土交通省 不動産建設経済局 前地籍整備室長 藤本 実紗
平成20年国土交通省入省。内閣官房国土強靭化推進室参事官補佐、都市局公園・緑地景観課課長補佐、砂防部砂防管理支援室長等の要職を歴任後、令和7年7月から令和8年7月まで地籍整備室長を務める。
東京大学大学院 工学系研究科社会基盤学専攻 教授 布施 孝志
空間情報学を専門とし、情報の計測・解析を中心とした空間情報学の高度化、空間情報学を応用した社会基盤計画・政策分析の高度化に関する研究に取り組む。
Introduction
南海トラフ地震などの大規模災害への備えが求められる中、災害からの迅速な復旧・復興や、道路などの社会のインフラ整備を支える「地籍調査」の重要性が高まっています。一方で、土地所有者の高齢化などにより、土地の境界を確認することが難しくなることも懸念されています。
今回の市長対談では、国土交通省の藤本実紗前地籍整備室長と東京大学の布施孝志教授に、防災や公共事業と地籍調査の関わり、地籍調査のあり方についてお話を伺いました。
暮らしと防災の基盤となる地籍調査

市長 今回の対談会場は「香良洲高台防災公園」です。東日本大震災の教訓から、海抜が低く三角州地帯である香良洲地域に、国や県事業などで発生した建設発生土75万立方メートルを活用し、海抜10メートルの高台防災公園を整備しました。
この整備事例について、藤本室長から「国土強靱化」という観点でお話を伺えますか。
藤本 近年、気候変動の影響により自然災害が激甚化、頻発化しており、将来的に南海トラフ地震の発生が懸念されています。そのような中、都市公園として整備された香良洲高台防災公園は、平時には市民の憩いの場として、いざという時には避難地や救援・救護活動の拠点として活用することができます。これは平時から災害に備えるという国土強靭化の考え方を形にしたような施設だと思います。
布施 私も、東日本大震災の被災地を土木学会災害調査団として現地を見てきましたが、人命を守るために避難場所を確保することは重要だと感じました。また、災害時にきちんと機能を果たすためには、防災施設が平時から役割を担っていることは極めて重要です。普段から利用している場所であれば、いざというときにも安心して避難することができます。そして、こうしたハード・ソフトの総合的なマネジメントの基盤となるのが「地籍調査」だと思います。
地域の協力が生んだ 立ち会い率99%
市長 津市では平成28年から、伊勢湾沿岸部を地籍調査の重点整備区域に設定し、調査を進めており、最初に手がけたのが香良洲地域になります。漁業を中心に発展してきた町で、お隣同士の距離が近く、自治意識が高いエリアで、区長の皆様を中心に地域で声を掛け合っていただき、立ち会い率99%を達成しました。
藤本 立ち会い率99%はすごいですね。香良洲地域の団結力の高さがうかがえます。
布施 これまで地籍調査が進まない理由の一つとして、土地所有者の理解を得ることの難しさが言われてきました。香良洲地域では、防災を自分たちの問題として捉えられたことが成功の鍵であり、素晴らしい事例です。
市長 香良洲地域で高まった地籍調査への機運が、北部の河芸地域などに良い波及効果を生んでいます。
地籍調査で公共事業を円滑に進める

市長 国の一級河川雲出川の整備計画では、約158haの遊水地を整備し、大雨により河川の水位が越流堤の高さを超えた際には、農地に一旦水を貯留することで、流域の人的被害や住宅被害を抑制する計画です。津市では国の事業に先駆け、遊水地約158haのうち100haを対象に、事業費8500万円を投じて地籍調査を行い、流域治水を進めるための基盤づくりに取り組んでいます。
藤本 雲出川は、流域で著しい浸水被害が発生するおそれがあることから「特定都市河川」に指定されています。このような河川では、河道の整備だけで水害を防ぐことが難しい場合もあるため、流域全体でさまざまな関係者が連携し、被害の軽減を図る「流域治水」の考え方が重要になります。遊水地の整備を進める上でも、土地の位置や境界を正確に把握し、必要な用地取得や地役権の設定を円滑に進めることが欠かせません。こうした公共事業と連携して地籍調査を進めることは、事業の円滑化や早期完成にもつながる有効な手法であり、国土交通省としても重点的に支援しています。
市長 道路事業でも、地籍調査が事業の再開につながった事例があります。一志町波瀬地内における県道一志美杉線のバイパス整備に伴う用地整理を進める中、公図と現状が合わないため、用地買収が進まず事業の進捗に影響が出た事例がありました。そこで津市が地籍調査を実施し、3年間で調査を完了したことで、県の道路事業を再開することができました。この経験を踏まえ、美杉町太郎生地内の国道368号のバイパス整備についても、用地買収に先立ち、令和8年度より津市が地籍調査を進めています。
藤本 地籍調査は災害発生後の早期の復旧・復興だけでなく、社会資本整備やまちづくりを効率的に進める効果があります。国としても早期実施の必要性を感じています。
全国的な課題から考える地籍調査の未来
布施 地籍調査の重要性が社会全体にまだまだ浸透していないと思います。さらに、地方公共団体ごとにいろいろな課題があるということが「国土調査のあり方に関する検討小委員会」でも議論になりました。例えば、地籍調査を実施する担当職員数が1人以下の自治体数が、なんと178自治体もあります。一方、津市では、地籍調査を推進するための基盤整備に着実に取り組み、必要な人員や予算を確保してこられました。さらに、現在もその体制を維持しながら事業の促進を図られており、大変素晴らしい取り組みであると感じています。
市長 ありがとうございます。平成28年に計画を策定してから、人員と予算を充実させ、取り組みを進めています。
藤本 予算について、地籍調査に限らず、近年人件費等の上昇により事業費が増加しています。仮に同額の予算だとしても実施面積が下がるわけですから、地籍調査予算の確保というのが第一の課題です。もう1つはマンパワー不足です。布施教授も言われたとおり、市町村の自治体担当職員数がどんどん減っている中で、マンパワーをどう確保していくか、ノウハウをどう継承していくかというところが大きな課題となっていますが、津市はバランス良く取り組まれていますね。
市長 マンパワーの面では、法務局OBの採用や、公共嘱託登記土地家屋調査士協会との連携を図っています。市民の皆様に費用負担なしで土地の境界を明確にする事業であることを説明し、測量などの際には市の職員も専門家と一緒に出向くことで、安心感を持っていただけるよう努めています。
藤本 国土交通省では、地籍調査を効果的、効率的に進める取り組みを広く展開させるため、令和7年度「ミチセキアワード」という、地籍調査の取り組みを表彰する制度を始めました。津市が初代大賞に選ばれ、令和8年1月28日に表彰させていただきました。
市長 地籍調査を一生懸命取り組んできたことに、ご評価をいただいたかなと思います。
藤本 津市の取り組みは、地籍調査を災害リスクの高い「重点整備区域」を設定し、国や県や専門家も含めた推進体制を構築されていることが他にはない事例です。こうした取り組みに加え、広報活動も積極的に行われ、多角的、多面的な取り組みが評価をされ、受賞に至りました。
布施 事業を進めるための進捗率だけにとらわれない地域の実態に合わせた事業計画や組織体制を整え、国や県、専門家、住民との連携、そして、市長のリーダーシップ、これらが本当に重要だったのかなと思います。今後、この取り組みが、三重県、東海地方、さらには全国へと広がり、未来の地籍調査へのステップアップにつながっていくことを期待しています。
市長 地籍調査の重要性を市民の皆様にお伝えしながら、取り組みを進めてきました。全国では現在どのような状況なのでしょうか。
藤本 地籍調査は、昭和26年に国土調査法が制定されてから75年になりますが、全国で進捗率は53%とまだ道半ばの状況です。円滑かつ効率的に進めていくため、国では令和2年に法改正を行い、地方自治体への支援を積極的に行っています。
国では、地籍調査を計画的に進めるため、令和2年度から令和11年度までの「第7次国土調査事業十箇年計画」を定めています。令和6年には中間見直しを行い、残された課題や、今後どのように地籍調査を進めていくべきかについて議論を重ねました。この検討には、布施教授や前葉市長にも委員としてご協力いただいています。
新たな技術で次世代へ確かな地図を残す

市長 この中間見直しではさまざまな議論があったと思います。今後地籍調査をどのように進めていくべきか、布施教授のお考えをお聞かせください。
布施 調査が遅れている都市部や山村部で、いかに効率的に進めていくかが課題になります。そのため、都市部では自動車で走行しながら周辺の三次元データを取得するMMS、山村部ではリモートセンシングなどの新技術を活用することも重要です。国によるモデル事業などを通じて成功事例を積み重ね、ノウハウを共有しながら、調査の効率化につなげていく必要があります。
市長 津市でも、こうした新しい技術を使いながら、「地図を残す」という強い思いで進めていきます。
藤本 正確な地図を作って後世も使えるようにすることは地籍調査の目的だと思っています。国土交通省としても津市の取り組みを一つの先行事例として、広げていきたいと考えています。
市長 十箇年計画もいよいよあと3年となってきました。地籍調査をさらに進めるための新たな取り組みも始まっているそうですね。
藤本残り3年で地籍調査をしっかり進めていくために、6月に新しく3ケ年加速化施策パッケージを公表しました。調査の迅速化や他事業連携、新技術活用、公益化・共同化、インセンティブの大きな5本の柱を設け、集中的に取り組んでいきます。
市長 大変心強いです。一方、ここまで災害時の復旧において重要だという話もしてきましたが、令和6年の能登半島地震では、地籍調査が完了していた地域でも現況とズレが生じる事例が発生したと伺っています。
藤本 側方流動という土地が水平方向に移動するといった現象が発生し、復興への支障が懸念されました。そこで国や専門家で「土地境界再確定加速化プラン」を策定し、特に被害が大きかった内灘町へは、津市から地籍アドバイザーを派遣いただき、現地での立ち会いなどで大変ご協力をいただいております。
市長 布施教授も現地をご覧になられたと伺いました。
布施 側方流動の影響の大きさを痛感しました。土地の境界を再確定するためには、多くの人手だけでなく、地域の事情を理解し、専門的な知識を持つ地籍アドバイザーのような人材の力が不可欠だと感じました。
市長 災害が起きてから土地の境界を確認することの難しさを考えると、社会のインフラとして平時から地籍調査を進めておくことが重要だと感じます。布施教授、これからの地籍調査について一言お願いします。
布施 地籍調査は、適正な土地利用や管理、円滑な土地取引を支えるだけでなく、都市再生や災害の復旧・復興につながる重要な取り組みです。
土地は皆様の私有財産ではありますが、公共の福祉と切っても切り離せない状況にあります。市長が言われる「地籍調査は社会のインフラ」という考え方を、国全体で共有できると豊かな国づくりにつながるのではないでしょうか。
市長 本日は、さまざまな角度から地籍調査の重要性について貴重なお話をいただき、ありがとうございました。地籍調査が「社会のインフラ」であるとの認識を市民の皆様と共有し、今後も着実に推進していきたいと思います。

担当部署
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