#1 「教育長インタビュー」の深掘りインタビュー

ページ番号1013457  更新日 2026年7月18日

”教え子から恩師へ 津市の教育について深掘りインタビュー”

伊藤教育長(左)本多指導主事(右)
伊藤教育長(左)と本多指導主事(右)

(1) 撮影を終えて ―― 市民へ届けたい「授業改善」の真意

子ども達が対話しながら授業を進める
子ども達が対話しながら授業を進める様子

本多:教育長、今日は「つし学びLive」の記念すべき第1回インタビュー、本当にお疲れ様でした。収録中、校内にはちょうどお昼休みの放送が流れ、掃除が始まる活気ある音が響いていましたね。普段、講演会や校長会などで何百人を前に堂々とお話しされている姿を拝見していますが、今日はカメラを前にして、少し勝手が違ったようにお見受けしました。

伊藤:いやあ、本多さんには見透かされてしまいますね(笑)。実を言うと、カメラに向かって一人でお話しするのは、非常に難しさを感じました。私は元々、目の前の相手と呼吸を合わせ、その反応を肌で感じながら言葉を交わす「対話」が何より好きなんです。カメラの向こうにいる市民の皆さんにどう届くかを想像しながら、話し方や感情の込め方が一本調子にならないよう、あるいは熱が入りすぎないよう、自分なりに試行錯誤の連続でした。やはり、投げたボールがダイレクトに返ってくる「キャッチボール」のようなやり取りの方がありがたいですね。

本多:その「対話」を信条とされる教育長が、あえて動画という情報発信の形を選び、この6月からチャンネルをスタートさせた。そこには、何かお考えがあるのですか。

伊藤:そうですね。津市では令和5年度から「授業改善」を本格的に推進してきましたが、私たちがどれだけ発信しているつもりでも、保護者や市民の皆さんにその真意が十分に「浸透」しているかというと、まだ大きな課題があると感じていたんです。「授業改善をやっていると言うけれど、具体的に何が変わるの?」「うちの子どもの学校はどうなの?」といったお声をいただくことも少なくありません。

本多:確かに、教育委員会の中だけでの議論に留まっていては、本当の意味での理解は得られませんね。

伊藤:ええ。だからこそ、ただスローガンを並べるのではなく、「なぜ今、授業改善が必要なのか」という根源的な問いと、その「具体的な姿」をきちんとお届けする場が必要だと感じていました。言葉で説明するよりも、実際に子どもたちがキラキラと目を輝かせて学ぶ姿や、先生方が葛藤しながらも果敢に挑戦している姿。それらを学校に直接カメラが入る形でリアルにお伝えすることが、市民の皆さんに想いを届けるための一番の近道だと考えたんです。この番組が、教育現場の熱量を皆さんにダイレクトに繋ぐ、新たな「対話」のきっかけになればと願っています。

(2) 津市の教育の魅力 ―― 多様な「地域の魅力」が子どもを育てる

地域の祭りに出す出店の準備
地域の祭りに出す出店の準備をしている様子

本多:番組の本編でも少し触れられていましたが、教育長は公務の間を縫って、本当に精力的に市内の小中学校を回られていますよね。現場を直接見ている教育長の目から見て、改めて感じる「津市の教育ならではの魅力」とは、具体的にどのような点にあるのでしょうか。

伊藤:そうですね。私が学校を訪問して何より素晴らしいと感じるのは、津市という街が持つ「多様性」そのものです。今の津市は、かつて10もの市町村が合併して誕生したという経緯があります。そのため、校区を一つとっても、潮風が香る海沿いの学校もあれば、深い緑に包まれた山あいの学校、そして清流のそばにある学校と、地域によって見せる表情が実に対照的なんです。

本多:確かに、これほどバリエーション豊かな学習環境が共存しているのは、津市の大きな特徴ですね。指導主事として各校に関わっていても、地域ごとに流れている空気感の違いを感じます。

伊藤:ええ。そして、その風景の数だけ、その土地で大切にされてきた独自の歴史や文化、伝統が息づいています。私は、子どもたちが自分の住む地域を単に「知識」として知るだけでなく、地域行事や伝統の継承といった活動に、一人の当事者として「参画」していってほしいと願っています。地域の方々と共に汗を流し、その価値に触れるプロセスこそが、子どもたちの学びを本物にしていきます。

本多:それぞれの学校が、地域の「本物」と繋がることで、学校のカラーもより鮮明になっていくということですね。

伊藤:その通りです。大規模校もあれば小規模校もある。都会的な環境もあれば豊かな自然もある。この「バラバラであること」こそが、津市の最大の魅力なんです。それぞれの学校が、地域の特色を最大限に生かした教育を展開したとき、他には真似できない、深みのある「地域の味」がじわっと染み出してくる。そんな、多様な個性が光る「地域の味」を存分に生かした教育が、これからの津市をより面白くしていく。私はそう確信していますし、それが形になっていってほしいと思います。

(3) 自身の教育に対する思い ―― 「繋ぐ」と「本物」が魂を揺さぶる

現場学習での学びを発表
現場学習での学びを発表する様子

本多:教育長とお話ししていると、その情熱の根底には、教員時代から全く揺るがない「信念の軸」があることを強く感じます。実は私、教え子の一人として、教育長が昔から大切にされていた柱を今でも鮮明に覚えているんです。

伊藤:そう言われると少し照れくさいですね(笑)。私が教員時代から一貫して、自分自身の、そして教育の柱として掲げてきたのは「繋ぐ」と「本物」という2つのキーワードです。私の手一つでは、子どもたち一人ひとりの多様な思いや興味、そして潜在的な良さを引き出しきることは到底できません。だからこそ、私は「繋ぐ」役割に徹してきました。

本多:具体的に、どのような「繋ぎ」を意識されていたのですか?

伊藤:例えば、料理が好きな子がいたら、本物の料理人と出会わせ、実際に魚を三枚におろす姿を見て、自分もできるようになる。あるいは、子どもたちが「南中ソーランを踊りたい」と言い出したときには、その発祥の地である北海道の稚内南中学校から関係者を招き、なぜこの踊りが生まれたのか、その背景にある「心」を直接語ってもらいました。子どもたちは「本物」に出会ったとき、理屈ではなく魂を揺さぶられ、自分でも驚くほど輝き出すんです。私がどれだけ頑張って教えても、それは知識や技術の伝達に過ぎない。しかし「本物」との出会いは、子どもたちの心を突き動かす原動力になるのです。

本多:そのお話、今の私には深く刺さります。実は、私が小学校4年生の時の文集に「夢は教師」と書きました。当時の担任だった教育長が、私にとっての「本物」だったのかもしれません。あの時、一人の大人として本気で向き合ってくれた姿があったから、今の私があるのかもしれませんね。

本多:今、津市の学校現場では、かつての「先生が前に立ち、子どもが受動的に聞く」というスタイルから、子どもたちが自ら問いを立てて動き出す、子どもたちが主人公の授業へと少しずつ変わってきていますね。

伊藤:ええ。学校訪問で、子どもたちがキラキラと目を輝かせ、前のめりに学んでいる姿を見て、確かな手応えを感じています。それを支えているのが、先生方の細やかな仕掛けであり、そして「ICT(タブレット)」の活用、何より「誰一人取り残さない」という思いが根底にあると思っています。

本多:ICTの活用については、教育長は特に「誰一人取り残さない教育」のために不可欠だとおっしゃっていますね。

伊藤:その通りです。ICTは単なる効率化の道具ではありません。例えば、ある中学校の教室で、周りと交わらずに一人でタブレットに向かっている子がいました。以前なら「孤立している」と見なされたかもしれませんが、実はその子はチャットを通じて、クラスメイトと深く繋がり、自分の考えを発信していたんです。タブレットがあることで、今まで見えなかった子どもの「思考」が可視化され、声なき声が拾えるようになった。絵が苦手だった子がデジタルで素晴らしいデザインを生み出すように、潜在的な能力を「形」にする力が、ICTにはあるのです。

本多:その「誰一人取り残さない」という思いは、この夏から始まる「拠点型部活動」にも色濃く反映されていますね。

伊藤:はい。休日の部活動が地域展開していく過渡期において、子どもたちの「居場所」を失わせてはいけないと考えました。市内全20校の中学生が、学校の垣根を越えて9種目の運動部から自分の「好き」「やってみたい」を選べる環境を整えたのは、どの子どもにも学びと活動の機会を保証するためです。これは、指導する先生方の負担を軽減しながら、一方で「土日も指導したい」という熱意ある先生の身分も保証する、津市なりの挑戦的なモデルです。授業でも部活動でも、子どもが自分の「得意」や「好き」を自由に伸ばし、誰一人として学びの場からこぼれ落ちない。そんな教育を、実現したいと思っています。

(4) 夢について ―― 3つの施策が描く「夢の連動」

生活の時間で想像を膨らませている
生活科の時間で想像を膨らませている様子

本多:先ほど、私の教え子時代の「夢」のお話をしましたが、教育長が最近、特に心を動かされた「夢」にまつわるエピソードがあるとお聞きしました。

伊藤:ええ、植松努さんの物語です。彼は幼い頃、アポロの月面着陸をテレビで見て「宇宙の仕事がしたい」という壮大な夢を抱きました。しかし、学校の先生を含めた周囲の大人は「どうせ無理だ」「もっと現実を見ろ」と、彼の夢を笑い、勝手にレッテルを貼ってしまったんです。

本多:それは、多くの子どもたちが経験する「夢の挫折」の典型的な姿かもしれませんね。

伊藤:悲しいことですが、そうです。でも植松さんは諦めなかった。3歳の時、おじいちゃんの膝の上でアポロの話を聞いた時の温もりと、「お前も宇宙へ行けるぞ」と喜んでくれたあの笑顔を信じ続けた。最終的に彼は、大学の先生など同じ志を持つ仲間と出会うことで、ロケットを作るという夢を現実にしました。私は、大人が子どもの夢に「どうせ無理」と蓋をするような社会を変えていく必要があると思います。その変革に、教育は大きな役割を果たさなければいけないと思っています。

本多:教育長が掲げる津市の「3つの主要施策」は、まさにその「どうせ無理」という壁を打ち破り、子どもたちが夢を語り続けられる土壌を作るためのものですよね。それらがどう連動しているのか、改めて整理させてください。

伊藤:はい。これら3つはバラバラの点ではなく、一つの大きな「夢のサイクル」として繋がっています。

まず、1つ目の津市架け橋プログラム(幼児教育と小学校の接続) についてです。幼稚園や保育園では「遊び=ワクワクする学び」「あそびがまなび」です。しかし、4月に小学校へ入学した途端、ワクワク感が途絶えてしまう、そんな「小1の壁」があります。このプログラムの肝は、幼児期の「やってみたい」という好奇心を、小学校の学びにスムーズに「接続」させることです。「おままごと」や「お店屋さんごっこ」が、そのまま社会を知るためのキャリア教育の芽になる。好奇心の連続性こそが、夢を描くための大切な土台なのです。

つづいて2つ目の地域と共にある学校づくり(コミュニティ・スクール)です。 夢を具体化するには、地域での「本物」との出会いが不可欠です。津市の豊かな海・山・川のフィールドで、自分の地域を愛し、誇りを持って生活する人、そして働く人たちとともに当事者として活動する経験。それが、子どもたちの興味を「憧れ」から「目標」へと変え、社会へと繋がる確かな手応えを与えます。

最後に3つ目のGIGAスクール構想(ICT・AIの活用) ICTは、夢を形にするためのツールの一つです。かつては、絵が苦手だったり、人前で話すのが苦手だったりすることを理由に、夢を諦めてしまう子がいました。しかし、タブレットを使えば、今まで見えなかった子どもの深い思考やデザインセンスが「可視化」されます。チャットなら自分の考えを堂々と発信できる子もいる。これは「誰一人取り残さない」ための究極のツールです。また、これからAIが当たり前になる社会で、それを使いこなし、いざという時に自分を助ける力として活用できる子どもを育てることが、未来の夢を守ることに繋がっていくと考えています。

本多:なるほど。ワクワクする心を「架け橋」で守り、地域の「本物」との出会いで夢を具体化し、ICTという武器でその夢を加速させる。この3本柱が、津市の子どもたちが「自分の力で生きていく」ための強力なエンジンになるわけですね。

伊藤:その通りです。夢を持つことは、いくつになっても自由です。でも、特に子どもたちが「夢を語ってもいいんだ」「自分には可能性があるんだ」と心から思える環境を、私たちは粘り強く作っていきたいと思っています。

(5) これからの「つし学びLive」への期待 ―― 会話の起点になる番組へ

タブレット端末を使いこなしながら学びを進めている
タブレット端末を使いこなしながら学びを進めている様子

本多:教育長、今日は本当に熱いお話をありがとうございました。収録を通して、教育長がどれだけ本気で「子どもたちの未来」を、そして彼らが描く「夢」を信じているかが痛いほど伝わってきました。最後に、これからこの「つし学びLive」を見てくださる市民や保護者の皆さんに、教育長から一番伝えたいメッセージをいただけますでしょうか。

伊藤:そうですね。私は、この「つし学びLive」という番組を、ただ「見て終わり」の動画にはしたくないんです。この番組の目的の一つは、視聴後の「対話」です。番組を見た後に、ご家庭の食卓で、あるいは学校の教室や職員室で、「今日の動画のあの場面、どう思った?」という会話が自然に生まれてほしい。そこから「自分はこれから、どんな力をつけていきたいか」「本当はこんなことに挑戦してみたいんだ」といった、子どもたちの本音の言葉が引き出される。また、先生方が、「もっと子どもたちが輝くためには、どうしたらいいか」など、「話題」の起点になることを何より願っています。

本多:単なる教育委員会の広報ではなく、家庭や学校でのコミュニケーションを活性化させるための「呼び水」のような存在ですね。

伊藤:その通りです。今の世の中は、AIの急速な進展などによって、10年後、20年後の姿が誰にも見通せない「先行き不透明」な時代です。そんな時代を生き抜く子どもたちに、どんな力をつけてあげればいいのか。それを私たち大人だけで決めるのではなく、この番組を一つのきっかけとして、市民の皆さんと想いを共有し、共に考えていきたいんです。番組が発信する子どもたちのキラキラした姿や、先生方の挑戦を見て、「津市の教育が、動いている!!」と感じていただきたい。

本多:子どもたちが自分自身を信じて、「この不透明な社会でも、自分はこう頑張りたい」「こんなことをやってみたい」と前を向けるような、そんな勇気を与える番組にしていかなければなりませんね。

伊藤:ええ。子どもたちが「夢」に向かって羽ばたこうとしたとき、私たち大人が「どうせ無理だ」とレッテルを貼るのではなく、本気で彼らの背中を押し、支えていく。そんな、津市の教育でありたいと思っています。この番組が、子どもたちにとって「自分も何かに挑戦してみたい」「自分の可能性を試してみたい」と思える、最初の一歩=「きっかけ」になれば、これほど嬉しいことはありません。

本多:教育長、力強いお言葉をありがとうございました。私たち指導主事も、7月から本格的に始まる学校現場の取材を通して、現場の先生方と手を取り合い、子どもたちの「ワクワク」が止まらない学びの姿を、責任を持って全力で発信し続けます。

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