#2 「津市架け橋プログラム」

ページ番号1013458  更新日 2026年7月18日

津市立藤水小学校の1年生の授業

つぼみが開いたときの表情
「つぼみ」が開いたときの表情

 「津市架け橋プログラム」は、幼児教育と小学校教育を円滑につなぎ、子どもの育ちや学びを連続的に支える取組です。園と小学校が連携・協働し、子ども一人一人の豊かな成長と安心して学び続けられる環境づくりをめざしています。

 今回は、「津市架け橋プログラム」に積極的に取り組んでいる藤水小学校の授業風景を動画にしました。

 藤水小学校1年生担任佐藤先生、架け橋サポーターの荒木先生、司会の市野の3人で10分間の動画の中だけでは伝わらない子どもたちの様子や、先生の仕掛けなどを深掘りインタビューしていきます。

(1) 子どもが自然とリズムに乗っていく授業づくり

リズムに乗りながらカスタネットをたたいている
リズムに乗りながらカスタネットをたたいている様子

市野: 佐藤先生、本日はありがとうございました。1年生とは思えないほどテンポが良く、子どもたちが次々とリズムに乗っていく姿が印象的でした。

佐藤先生: ありがとうございます。今の時期の1年生は集中力が長くは続かないので、5分から10分の活動を同じ順番で組み立てるようにしています。子どもたちも「次はこれだ」と見通しが持てるので、自然とリズムに乗っていけるんですよね。

荒木: 本当に「やらされてる感」が全くなかったですね。子どもたちが「明日も音楽がいい!」と言うのがよく分かります。先生が事細かく指示をしなくても、ポンポンポンと活動が進んでいくのが気持ちいいです。みんなやりたくてやっていることが、ニコニコした顔からも伝わってきました。

市野: 授業中、特に面白かったのが楽器の扱いです。佐藤先生、トライアングルの叩き方をあえて最初に教えませんでしたよね。

佐藤: そうなんです。教科書を見ると「叩く場所を変える」とか「こうやって叩く」といった手順が丁寧に載っているので、「いつかこんなことも教えやなあかんのやな…」とは思っていました。ただ、教師が教えたことは、子どもはすぐに忘れてしまうんですよね。(笑)でも、友達が発見して「ここを叩くと音が違う!」と言い出したり、みんなの前で実演したりすると、聞いている子も「あの子すごい」「私もやってみたい」と、しっかり心に残るんです。

荒木: 私たち幼児教育の人間からすると、その「教えたら負け」という感覚、すごく分かります。子どもの中から出てくるまで待つ。佐藤先生は、子どもたちの中にすでにある知識や遊びの経験を、授業という場で「価値付け」されている。それが素晴らしいなと感じました。

市野: 印象的だったのは、ある子がトライアングルを紐で持たずに、本体を握ったまま叩いて「ちーん」と鳴らなかった場面です。普通の先生なら「紐を持って」とすぐに正解を言ってしまいがちですが……。

佐藤: あれはチャンスの場面ですよね(笑)。周りの子は「紐がどうとか」一生懸命教えようとしていたけれど、本人は「あれ?」っていう顔をしていて。あそこでもっと長く「なんでかな?」と引っ張りたかったくらいです。持ち方がちがうとは言わない。自分の生活の中で「この音がええな」と思うなら、それでいいんです。子どもに考える余白を残したい。

市野: あの「混沌とした状態」を先生が楽しんで見ておられるのが伝わってきました。結局、その子は鳴らした後に不思議そうな顔をしていましたけど、その「何が違うんだろう?」という問いこそが学びですよね。

(2) 子どもの声から広がる教材との出会い

ペアで楽しみながら授業を受けている
ペアで楽しみながら授業を受けている様子

荒木:以前、大学の先生から「大事なことは教えない」というお話を聞いて、それがすごく心に残っていて。全部を自由にしたらぐちゃぐちゃになりますが、教えるべき規律と、子どもに気づかせる場面のメリハリを大切にしてみえますよね。佐藤先生は、1年生だからといって子ども扱いせず、「私はこうして欲しいんやけど、あなたはどう思っとんの?」と、しっかり一人の人間として対話されていますよね。その土台があるからこそ、子どもたちは失敗を恐れずに自分の声を出し、友だちを助けに行けるのだと感じました。

佐藤: 私は子どもと対等ですから(笑)。子どもがリクエストした曲を調べて「行けそうやな」と思ったら採用する。そうやって「自分の声が実現したぞ」と感じられれば、子どもたちはもっともっと自分たちで調べたり、面白いことを言ったりしてくるようになるんです。

市野: 授業の後半、子どもたちがクラシック音楽にまで親しんでいる姿に驚きました。1年生でベートーヴェンや「ラデッキー行進曲」まで楽しめるとは。

佐藤: あれは実は、音楽室探検がきっかけなんです。子どもたちが掲示してある肖像画を見て「誰これ、怖い!」なんて言い出して(笑)。そこですかさず「この人はベートーヴェンだよ」と教えたら、ある子が「喜びの歌」を歌い出した。それなら次の時間にオーケストラバージョンを聴かせてあげよう、と繋げていったんです。

荒木: まさに、子どもが興味を持った瞬間に、その延長線上に教材をパッと置きに行っていますよね。そのセンスが素晴らしい。

佐藤: 「ドレミの歌」の言葉集めも面白かったですよ。私は「ファ」は「ファミリーマート」とか「ファンタ」くらいしか出ないかなと思っていたんです。ところが子どもから「ファイヤー!」って出てきて(笑)。「超えてきたな!」と嬉しくなりました。

市野: 子どもの頭の柔らかさには脱帽ですね。

佐藤: 以前の私は、もっとガチガチにレールを敷いて、そこから外れないように授業をしていました。でも今は、子どもの言うことを聞きながら、ぐっと「我慢」して待つようにしています。その「余白」から、「ドレミの歌」のリズムに乗せて自分の言葉を言えるようになる、といった成長が生まれるんです。

荒木: 幼稚園でも言葉集めはよくやりますが、小学校でこうして音楽のリズムと結びつくことで、より豊かな表現になっていますね。

佐藤: 表現といえば、今回「ひらいた ひらいた」の歌唱で、あえて「どんな気持ち?」という聞き方をしませんでした。

市野: それはなぜでしょうか?

佐藤: 「どんな気持ち?」と聞くと、子どもは「嬉しい」「悲しい」という決まりきった言葉で終わってしまうんです。でも「お花が咲いたとき、どんなお顔してるかな?」とか「どんな声でお話するかな?」と聞くと、イメージが具体的に膨らんでいく。実際、子どもたちは「つぼみがしぼむ時は、声が小さくなるよ」と、声の大きさで感情を表現していました。

荒木: それは幼児教育の現場でもぜひ伝えたい技術です。「嬉しい」という言葉の中にあるグラデーションを、表情や身振りで可視化しているんですね。

(3) 「遊び」と「学び」をつなぐ生活と探究活動

「ガッシャン」の合図でスカーフを投げて捕まえている様子
「ガッシャン」の合図でスカーフで友だちを捕まえている様子

市野: 後半のスカーフを使った活動。あれも「リトミック」の要素を取り入れたと伺いました。

佐藤: スカーフは透けて見えるし、軽くて安全。投げたり、くしゃくしゃにしたりすることで、視覚的にもリズムを感じられるんです。最初は大判のスカーフ1枚から始めたんですが、あまりに反応が良いので、クラスの班の分を揃えてしまいました(笑)。

荒木: 「遊び」と「学び」を切り離すのではなく、子どもが夢中になれる遊びの要素を授業に編み込む。佐藤先生の授業には、子どもたちが安心して自分を表現できる「土台」が、確かな技術と愛情で築かれていると感じます。

市野: ここで、音楽の枠を超えた「生活科」や学級経営における探究について伺います。佐藤先生、最近は学校探検のやり方を大きく変えられたそうですね。

佐藤: はい。以前は2年生が準備したクイズを解きながら各部屋を回るような、いわば「用意されたイベント」でした。でも今回は、日常の延長でやってみたんです。「先生たちがいる部屋を覗いてみようか」と歩いたり、下駄箱を見て「他の学年はどこかな?」と疑問を持ったり。子どもの声を聞きながら、一緒に進めていくスタイルに変えました。

荒木: それこそが本物の探究ですよね。決められたルートを歩くのではなく、子どもたちが自分たちの足で「発見」していく。

佐藤: 植物の栽培も同じです。「朝顔を育てます!」と決めるのではなく、前の1年生のチューリップの鉢を学校探検でみつけた時に、「みんなも何か育ててみたい?」と問いかけました。「自分たちもチューリップを育ててみたい」と言ってきたので、「チューリップは冬に植えるのよ。」と教えたら、「じゃあ、春に植えるものは?」ということになり、生活科の教科書で調べてみました。そして、「ヒマワリがいい」「ふうせんかずらがいい」と意見が分かれたんです。そこで「たねが、どうしたら手に入るか調べてみて。」と伝えたら、数人がお家にあった種を持ってきてくれました。

荒木: 素晴らしい行動力ですね。幼児教育では「待つ時間」をとても大切にします。佐藤先生のお話を聞いていると、子どもが「やりたい」と動き出すまでの時間を、単なる空白ではなく「ワクワクする待ち時間」に変えておられる。まさに「教える我慢」を実践されていますね。

佐藤: 本当に「我慢」です(笑)。つい先回りして言いたくなるけれど、子どもの声を待つ。学校探検でも、1年生のペアだけで自由に動かせてみました。2人でピョンピョン跳ねながら、楽しそうに廊下を歩く姿を見て、「ああ、この子たちは今、学校を冒険しているんだな」と。もちろん、授業中のマナーについて後で指導はしますが、まずは自分たちでやってみて「あっ、授業中にやかましくして、あかんかったな。」と自覚できるプロセスを大切にしています。

市野: その「自覚させる」という部分で、タブレットを使った振り返りも導入されていますね。

佐藤: 今日が初めての挑戦でした。操作が分からなくても、まずは「ペアで頑張ってみて」と突き放す。私が一人一人を助けるのは無理ですから(笑)。でも、そうすると子どもたちは「先生に頼ってもしょうがない、自分たちでなんとかしよう」と思い始めるんです。その「なんとかなる」という積み重ねが、誰一人取り残さない学び合いの土台になっていきます。

(4)幼小接続と、助け合う学級づくり

幼小が一緒に学びを広げている
幼小で一緒に学びを広げている様子

市野: 佐藤先生、長年1年生を担任されてきた中で、幼児教育への捉え方が変わってきたそうですね。

佐藤: はい。昔は、幼稚園で朝顔を育てたりすると「小学校での『初めての感動』を奪わんといてくれ」なんて思っていた時期もありました(笑)。でも今は全く逆です。「園でやったんや、すごいな! じゃあ小学校ではもっとこんなこともできるな」と、子どもの経験を歓迎して、そこから学びを広げるようにしています。

荒木: それは私たち幼児教育の人間にとって、本当に嬉しい変化です。子どもたちは「1年生になったら勉強がんばるぞ。100点取るんだ!」と、ものすごい憧れと期待を持って入学してきますから。

佐藤: だからこそ、学校と園の「違い」も正直に伝えます。「赤ちゃんクラスは先生がいっぱいいたけど、1年生は先生一人。でも、あなたたちはもうお兄さん、お姉さんだからペアで助け合ってできるよね」って。自分の状況を客観的に見る、いわゆる「メタ認知」を促すんです。

市野: その「先生は一人」という状況が、実は「誰一人取り残さない教育」に繋がっているのが面白いですね。

佐藤: そうなんです。最初は「先生はアンパンマンだから絶対助けるよ」と言って安心してもらい、奮闘しますが、30人全員を私が一人で見るのは物理的に無理。だから、あえて「無理だからペアで頑張って」と子どもたちに返していくんです。すると、子どもたちは「先生一人に頼っても仕方ない、自分たちでなんとかしよう」と動き出す。

荒木: 授業を拝見していても、子どもたちが本当に自然に、困っている子のところへ「どうしたん?」と寄っていきますよね。あれは、大人が「助けなさい」と指示してできることではありません。

佐藤: 以前のトライアングルの場面でもそうでした。鳴らなくて困っている子を見て、周りが必死に「紐を持って!」と教えようとする。教師が正解を教えすぎないからこそ、子どもの中に「助けたい」「教えたい」という本能的な親切心が芽生えるんです。

市野: 若い先生ほど「全員を同じペースで完璧にさせよう」と焦ってしまい、結果として授業が窮屈になるというお話もありました。

佐藤: 全員を同じ型にはめようとすると、授業がつまらなくなって、子どもたちの目から光がなくなっていきます。7〜8割の子ができていれば、あとの子は友達の姿を見たり、ペアで教わったりしながら、自分のタイミングで上がってくればいい。その「待つ」姿勢が、結果として誰一人取り残さない学級づくりに繋がっていくのだと確信しています。

荒木: 佐藤先生は、子どもの力を信じて「委ねる」のが本当にお上手です。それが、1年生という早い段階から「自律した学習者」を育てる秘訣なのですね。

市野: 「好きを育み、得意を伸ばす」教育について伺いたいと思います。まず、先生が大切にされている「ペアでの学び合い」についてですが、1年生ではどのような点に留意されていますか?

佐藤: よく「まずは1人で考えて、自分の意見を持ってから話し合いましょう」と言われますが、私は1年生に関しては、まず「ペアで話し合ってみて」と投げることが多いです。自分の意見を紙に書いて固定してしまうと、友達の意見を聞いても柔軟に変わることが難しくなる。むしろ、話し合いながら「私はこう思う」「あ、それならこうかも!」と盛り上がる中で自分の考えを見つけていく方が、子どもたちは楽しそうですし、深い学びになる気がしています。

荒木: 幼児教育の現場でも、必要な時は勝手にペアになります。でも小学校では、その「関わり方のスキル」を佐藤先生が丁寧に練習させていますよね。「わからない時は『わからない』と言っていいんだよ」という安心感の醸成が、誰一人取り残さない環境を作っている。

市野: そして、「好きを育む」という点では、今日のカスタネットの演奏でも、1人ひとりの表情や叩き方に驚くほどの違い、つまり「個性の表出」がありました。

佐藤: 1人ひとりが違って当たり前なんです。みんなを同じ型にはめようとすると、授業は途端につまらなくなります。算数のように積み上げが必要な教科でも、生活の中の要素を取り入れたり、遊びの要素を編み込んだりすることで、子どもたちが「あ、これなら得意かも!」と思える工夫を増やすようにしています。

荒木: 佐藤先生が「子どもが予想を超えてくるのが楽しい」と仰ったのが印象的です。その先生の楽しさが、子どもたちに伝播しているんですね。

(5)「やってみたい」から始まる探究と教師の挑戦

架け橋ルームで大きく体を動かしながら学んでいる
架け橋ルームで大きく体を動かしながら学んでいる様子

市野:佐藤先生、今後、さらに新しいチャレンジをされるそうですね。

佐藤: はい。実は今、あえてガチガチの指導案を立てずに授業をしてみようと挑戦しています。例えば、今度計画している給食室の探検です。衛生上の理由で中には入れないのですが、それを単に「ダメだ」と大人が決めて終りではなく、子どもたちに「どうすれば中が見えるかな?」と投げかけてみたんです。

荒木: 子どもたちからはどんなアイデアが出てきましたか?

佐藤: 面白かったですよ。「ドアをぶっ壊す」「自分たちも検便をして、入る」なんて極端な意見もありましたが(笑)、ある子が「写真やビデオを撮ってきてもらえばいい」と言い出しました。さらに「Zoomで中継してほしい」という提案まで子どもたちから出てきたらおもしろいなと期待しています。子どもたちの声で授業の形が変わっていく、その爆発力を大切にしたいんです。

市野: 算数などの「積み上げ」が必要な教科でも、その柔軟な姿勢は共通しているのでしょうか。

佐藤: 算数はなかなか予想を超えてくるのが難しい教科ですが、だからこそ、遊びの要素を取り込んだり、生活とつなげたりするなど、アプローチを工夫しています。最近はネットで見つけた10面体や20面体のサイコロを授業に取り入れています。サイコロを振って計算するだけで、子どもたちの目の色が変わります。算数そのものの力だけでなく、「自分の分かったことをまとめる」「友だちに分かりやすく伝える」といった多角的な手立てを用意することで、「算数は苦手だけど、算数の授業の中で、自分はこれなら得意かも!」と思える瞬間を増やしたいと思っています。

荒木: 1年生の「もっと遊びたい」という本能的な欲求を、佐藤先生は否定せず、うまく学びに変換されていますよね。幼稚園での自由な「遊び」と、小学校での「規律ある学び」。この二つを分断させるのではなく、園の授業風景の写真を見せて「園には先生がいっぱいいたけど、今は一人。でもみんなはもう1年生だからできるよね」と語りかけ、子ども自身のメタ認知を促している点も、非常に教育的だと感じます。

佐藤: 以前の私は、レールを敷いてその上を走らせるような授業をよしとしていました。でも、それでは、子どもはなかなか想定を超えてきません。子どもの声に耳を傾け、子どもの思考に寄り添った授業を目指すようになってから、子どもが予想を軽々と超えてくる姿を見るのが楽しくて、もう病みつきなんです(笑)。トライアングルの叩き方を教えなかったあの瞬間も、子どもたちの「何でだろう?」という気持ちを大事にしたかった。教師が「教えること」を我慢すればするほど、子どもたちは自分たちで考え、助け合い、驚くような発見をしてくれます。

市野: 「指導案を手放す」というのは、教師にとって勇気のいることですが、佐藤先生のそのワクワク感こそが、子どもたちを「自律した学習者」へと変えていく原動力なのですね。本日は、幼小接続の豊かな可能性を感じる素晴らしいお話をありがとうございました。

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