発掘調査での出土遺物の中では、土師器(はじき)皿の量が目立っています。そのほとんどは南伊勢で作られたものですが、中には奈良・京都産と思われるものもあります。これらは日常の食器以外として宴会や儀式の場で使用されたものも多いと考えられます。また、皿の中には灯明皿(とうみょうざら)として使われ、内側に油煙煤が付着しているものも多く見られます。 煮沸と調理用具 煮炊き具としては、土師器鍋がほとんどで、皿と同様に南伊勢で作られたものです。その他、滑石(かっせき)製の鍋や奈良産と思われる瓦質(がしつ)鍋、鉄製の鍋の破片などもわずかながら出土しています。すり鉢は陶器製品が主で、その産地としては瀬戸産と信楽産の二種類が大半を占めますが、瓦質のものも出土しています。また、製粉用としては一般的に石臼が使われていたようです。 |
在地産の土師器 |
京都系の土師器 |
在地で作られた土師器のほか、瀬戸・美濃産の灰釉(かいゆう)・鉄釉(てつゆう)陶器の碗・皿なども多く見られます。その中には、美しい鉄釉を施した茶入れ、天目茶碗や灰釉の平碗等もみられ、喫茶の風習や茶の湯の文化があったことがうかがえます。茶の湯を沸かす時に使われる風炉(ふろ)や茶臼の出土もこれを裏付けるものと考えられます。 貿易陶器の使用 北畠神社の宝物の中には、庭園の南側から出土したといわれる水鳥形の青磁香炉(せいじこうろ)の逸品があります。館跡の発掘調査でも、中国の龍泉窯(りゅうせんよう)産と考えられる非常に良好な青磁碗・器台・盤等が出土しており、館以外の地区の調査でも青磁類の出土がみられます。 |
金属製品と木・漆製品 武具としての弓矢の先につける鉄鏃は、多気北畠氏遺跡で複数出土しているほか、釘や日を起こす時に用いる火打ち鎌(ひうちがま)も見られます。また、「永楽通宝」を中心とした貨幣(銅銭)も数多く出土しており、当時の貨幣経済を基礎とした商品流通の一端がしのばれます。土器や陶磁器を中心とした当時の各種道具類のほか、木あるいは漆製品はかなりの比率で日常生活で使用されていたものと思われますが、現在のところは断片的な資料が出土しているにすぎません。なお、六田地区では下駄も発見されています。 |
貿易陶磁(青磁) |
犬形の土製品 |
大蓮寺や法光寺(ほうこうじ)の発掘調査では、寺の軒先を飾った巴文(ともえもん)の軒丸瓦などが出土しています。また、上村地区では石垣の裏から五輪塔や石仏が見つかっています。盆地内の道路脇や寺院伝承地には五輪塔や石仏が集められたところがあり、その中には戦国時代の年号が刻印されたものも見られます。北畠氏の一族や、さまざまな人に対する追善のための供養塔もあるのでしょう。また、六田地区や上村地区の発掘調査では、ミニチュアの犬の形をした土製品も出土しています。これは中世都市あるいは城館で多くみられるもので、犬は古来から安産の象徴であり、主人を守り邪気を払う忠義の象徴、現世と来世をつなぐ霊的な力を持った動物として、さまざまな伝説や物語に登場しています。 |